【水産教室を通じて子供たちへ託すもの】
静岡県南伊豆町/南伊豆漁協青年部
〜 今我々に何ができるのか 〜


地域・漁業の概要
  南伊豆町は伊豆半島先端に位置している。
  観光地として知られ、ダイビングや遊漁などの海洋レジャーが盛んな地域である。 漁業は採介藻、刺網や一本釣りなどが中心で、平成11年度の水揚量が468トン、水揚金額が約4億8000万円であった。このうちイセエビ、貝類、天草等の磯根漁業が金額で77%を占め、最も重要な漁業になっている。

研究グループの組織及び運営
  現在の青年部の前身である南伊豆町漁協青壮年部は漁協の合併を機に昭和40年に設立されたが、時を経るに従い、漁業者の高齢化、後継者不足などにより活動がままならなくなった。地域的にも漁業から観光業への転換があり、若者が遊漁・ダイビングなどの案内業へ参入するようになった。若手参入による部の活性化と、異業種間の交流を進め、海を働き場所とする者同士で共存共栄を目指すため、漁業者に限らずに海で働く者を取り込み、南伊豆町漁協青年部として再結成した。
  青年部は漁業に限らず、遊漁魚船業・ダイビング案内業など「海で働く若者」を中心に平成8年3月に部員70名で結成され、現在62名である。
  青年部の活動として今回発表する水産教室の他にヒラメの中間育成・放流、ヤマダイの放流、各種講習会を行っている。客商売の業種も多いので、緊急時のために救急法の研修会をH12年度は新しい試みとして実施した。

動機
  南伊豆漁協青壮年部では漁業者だけでなく、遊漁船業者・ダイビング案内業者も含めた、新しいスタイルの青年部を結成した。これまで異業種間の交流はなかったので、部員全員が参加してお互いの親睦を深め、仲間意識を育てるイベントが必要だった。
  我々の地域では、漁業に就く人が年々少なくなっている。我々はこの原因として、海の仕事にマイナスイメージがあると同時に、地域の住民から海への興味が薄れているのではないかと考えた。
  南伊豆町では20年以上前から海のない地域の子供を体験修学旅行で受け入れてきたが、地元の子供が海への関心を高める機会はこれまでなかった。地元の子供達を対象にした水産教室を開くことで、子供に漁業や海に関心を持たせ、同時に部員の親睦を図ることを考えた。子供達が海に関心を持つことで、将来海の仕事へ若手参入が増えること、水産教室を体験した子供達を通して地域住民が海や漁業を理解してくれることを期待した。

水産教室の実施
  水産教室は南伊豆町の小学校5・6年生を対象に、子供達が最も参加しやすい夏休みに入った直後に開催することにした。さらに、遊漁船業やダイビング案内業を行っている青年部員の承諾も得て、休漁日の火曜日に開催し、部員全員が参加できるようにした。町の教育委員会にも話を持ちかけ、水産教室を社会教育の一環として、漁協青年部と教育委員会の共催にした。参加者の募集は教育委員会が町内各小学校へ行った。水産教室は青年部を結成した平成8年以降、毎年開催されている。これまでの内容を第1表に示した。
  青年部で中間育成したヒラメを放流し、生き物を育てることの難しさや、海を守るための漁業者の努力を子供達に伝えている。平成11年から誰がどのヒラメを放流したか分かるように標識を打ち、標識番号入りの「放流証明書」を参加者に交付した。子供達にとって「自分のヒラメ」と感じられるのは嬉しいようで、再捕魚を放流した子供に、いつ、どこで、どの位大きくなって捕れたか連絡したところ大変喜んでいた。
  海からの視線で自分が住んでいる町を見せるため、遊漁船業の部員の船で体験航海を行った。平成10年スルメイカ(昼イカ)の一本釣漁業を見学するため、石廊崎沖の漁場まで足をのばした。平成11年から実際にイカ釣りを体験させて、より体験的な教室になるよう工夫している。
  干物加工体験では、地元特産の石廊崎沖スルメイカで、漁業者がよく作る沖干しを作っている。イカ釣りをしている部員が加工に使うイカを確保している。干物が家庭での会話のきっかけになり、水産教室が家族の話題になればと、作った干物はお土産にしている。
  水産教室の最後は、必ず子供達と青年部員で一緒にバーベキューをしている。その日のことを話題にしながら食事をすることで、海を相手に仕事している我々を子供達が身近に感じてくれるようになった。過去5回の水産教室への参加者は平成8年が78名、9年が84名、10年が84名、11年が76名、12年が56名であった。これは対象としている南伊豆町の小学校5・6年生の半数近くになる。

アンケート調査
  子供達が水産教室に参加して何を感じたのか知るために参加者には感想文を書いてもらっている。「船に乗って楽しかった」、「船長さんがいろいろ教えてくれた」といった好意的な意見が目立った。子供達は海に出て楽しい経験をしながら、それぞれに感じるところがあったようで、水産教室の目的の一つである「海に関心を持ってもらうこと」には成功している。
  平成11・12年に、中学校3年生を対象に水産教室と漁業、海についてのアンケート調査を行った。自分の将来について考え出す年頃に、海や漁業についてどのような意識を持っているのか調査した。
  159名全員から回答を得て、そのうち水産教室に参加した生徒は82名であった。このうち、「水産教室で一番印象に残ったことをどう感じているか」の設問では9割が「おもしろかった」「再度体験したい」と未だに好意的に感じていた。
  「南伊豆の漁業が今後発展するか」という設問で、ほとんどが「思わない」「分からない」という回答であった。この結果は、中学生が漁業の今後について、不安感を抱いているためだろう。しかし、5割が海について関心があると回答しており、特に、多くの生徒が海の環境や汚染について関心を持っている。「将来海に関わる仕事に就きたいか」という設問では159名中41名が「思う」と回答していた。これは我々が想像していたよりもずっと多く、驚きであった。この中には水産教室を体験して、海で仕事をしたいと考えるようになった生徒がいるのかもしれない。
  我々の水産教室で「子供達に海への関心を持たせる」ことはできた。その延長線上にある「若手の新規参入を促す」点については、まだ結果は出ていないが、26%の中学生が「海に関わる仕事に就きたい」と回答したアンケートの結果からは今後に期待ができる。水産教室を部員が一体となって活動した結果、部員間の親睦が進んだ。これまで交流のなかった異業種の間でも、海で手をあげあう仲になり、信頼関係を築くことができたのは水産教室の成果の一つである。

波及効果
  水産教室を始めて5年になるが、この頃は「今年はいつやるの」と訊ねられるようになった。多くの小学校低学年の生徒が、水産教室に参加できる学年になるのを楽しみにしていると聞く。毎年対象の半分近くが参加しており、我々の水産教室は、地元の子供達にとって楽しみな行事として定着している。ヒラメ再捕を伝えた家族から「子供の喜びをみて、海について考えさせられた」という手紙が来たことがある。水産教室に参加した子供を通して、大人も海に対する意識が変わってきている。水産教室の写真の掲示などで地域住民の目に触れる機会も多く、水産教室が我々漁協青年部の活動として、地域に認知されるようになった。この活動を通して、漁業や海に関する地域の理解の第一歩を踏み出すことができたと感じている。

今後の計画と問題点
  南伊豆町では10年程前から、中学校の課程に社会奉仕活動が取り入れられている。今後、水産教室を体験した中学生を教室の運営に参加させ、先輩として小学生を指導させることを社会奉仕活動の一つとして試みるつもりである。教室の内容には、南伊豆町で盛んな採介藻やイセエビ刺網といった磯根漁業の体験を行うことを考えている。異業種が集まっている青年部の特長を生かし、スノーケリング体験のような漁業以外の教室も予定している。
  将来的には、外部からも参加者を集めて南伊豆の海の素晴らしさを知ってもらい、その中から南伊豆で生活することを望んでくれる人が出てくれればと考えている。
&  水産教室が「若手の参入」に関して、どの様な結果をもたらすかは、今後数年間待たなければ結果は出ないが、我々の活動により、一人でも多くの若手が海の仕事に参入してくれることを期待している。異業種の集まりである我々青年部は水産教室を軸に交流を深め、海で働く者同士、「南伊豆の海で共存共栄」していく意識を高め、水産教室の活動を通して地域の理解と活性化に努めていく。水産教室を通して海の環境や汚染について子供達の関心が高いことが分かった。将来子供達がこの海で働きたいと考えたとき、きれいな海を渡してやるのがこれからの我々の責務である。

(第6回全国青年・女性漁業者交流開会資料より)